為せば成る、為さねば成らぬ、何事も

ヨルダンのパレスチナ難民キャンプの小学校にて音楽を教えてました。

パレスチナ難民キャンプで前澤さんからの100万円を使った話

自分にとってどんなに印象的だった出来事も時間が経てばその記憶は薄くなっていく。

もちろん完全に忘れるということはないのだが思い出せないことができたり、勝手に記憶を美化してしまったりということはあるはずなのでそのときの気持ちを後になって語るのは難しい。

 

さて、こましんといえば前澤さんの話題でもって知ってもらったことも多いのだけれども時間が経った今では新しい出会いもあったりで最近知り合った人はもうその話題を知らない人も多い。

別に知ってほしいわけでもないけど改めて何も知らない人に語る時に思い出しながら話すのも大変なので備忘録を残しておこうと思ったのである。

 

昔の記録を確認するのも面倒で記憶だけで書き綴ってる文章である。

もしかしたら時期とかのズレはあるかもしれない。

まあ、そもそもこの話もフィクションかもしれないくらいな気持ちで読んでもらえると嬉しい。

 

 

お年玉の100万円

2018年の年始のことだった。

株式会社ZOZOの前澤友作社長が、ツイッターで100名に100万円をプレゼントするお年玉キャンペーンを行なった。

ツイートに対しリツイートをしたものから選ばれるものだった。

リプの欄には何人かの人が使い道を述べたりしてたのでぼくもリプを簡単に送った。

自分のTwitterから探すのは骨が折れそうだけどTogetterにまとめられてたので抜粋。

 

こういうものは当たるものではないと思っていたのでリプを送ったこともRTしたことも次の日には忘れてた。

ヨルダンは年始といえども1月1日が休日なだけで別にいつもと変わらないのでいつものように活動先の学校に通って楽器のない中でできるような音楽アクティビティを模索しながらやってた。

とはいえできることは少ないし、現地の先生にも音楽じゃなくお遊戯として捉えられることも多く、音楽の時間を他の授業にされてしまうこともしばしばだった。

ここら辺は今回の話からは逸れるので省く。

 

 

1月8日。

目を覚ましてTwitterを開くとDMが来ている。

しかも有名人マークがついている。

 

前澤氏のアカウントからだった。

 

 

口座情報も含めて返信をしたら翌日には振り込まれていた。

 

正直、この展開には頭がついていかなかった。

金額よりもこの話題の渦中にいたことに頭を完全に持ってかれていた。

 

 

100万円の使い道で炎上

さて、100万円をもらったはいいが使い道に悩んだ。

楽器を買うにも何を買うか。

そもそも楽器を買うことが現地の音楽教育にベターな選択肢なのか。

 

そもそもアラビア語も不十分な自分が何をしようとしても思うようには活動できないのではないか。

Macbookのローンも終わってない。

当時付き合ってた中国にいる彼女に半年も会ってない。

 

そんなわけで以下のことに使おうと思った

①借金返済(本当はマックのローンだったんだけど)

②彼女を呼ぶ

③アラビア語を習う

④活動のためのものを揃える(電子ピアノとプリンタなど)

⑤学校に置ける楽器を買う

 

結果、Twitterは見事に炎上した。

そこらへんはTogetterのまとめでも見てほしい。

togetter.com

 

鳴り止まない通知。

送られてくる誹謗中傷。

 

そして

 

人間的だと笑ってるゆう○ゆう。

 

とはいえ、体感で半分くらいは励ましのコメントもあった気がする。

それがきっかけで今でも絡んでいる人もいるので悪いことばかりでもない。

 

 

そこで、ぼくは決めた。

この100万円を全て音楽教育に使ってやろうと。

 

結果からいえば

ローンは普通に自分で完済した。

彼女は向こうの自費でヨルダンに来た。

アラビア語(アーンミーヤ)は自分のお金で習った。

1ヶ月集中口座の350JODはなかなか懐には痛かったが他に教材もないのでしょうがない。

教材があるってだけで英語も中国語も学習者に優しいって感じたわ。

自分で使うものは自分で買った。

電子ピアノも自分で使うものは自分で買った。

最後には寄贈したけど。

 

 

楽器探しスタート

さて、楽器を買うことに決めた。

二つの学校に行っていたので2校に分けたかった。

まずはどちらにも鍵盤楽器を常設したかった。

 

100万円じゃ生ピアノは買えない。(というか売ってもいない)

電子ピアノを買うことに決めた。

あまりに安っぽいキーボードは後任の人が来た時に使いにくいと思うのでできるだけ実用的なもの、かつお手頃なものを考えた。

当時アンマンには楽器屋は2店あってどちらの店の店員にも相談したし、日本の楽器メーカーにもメール送ったりして相談した。

 

まずはYAMAHAのP-45を買うことにした。

当時Amazonかサウンドハウスで現行のものが3〜4万くらいで買えた。

しかも大体がスタンド付きだ。

 

ヨルダンでこれを買おうとすると450JODもした。

しかも、スタンドは別売りのため併せて購入して550JODだ。

当時1JODが150円くらいだったので大体82,500円だった。

 

ヨルダンで売られてる楽器のほとんどがYAMAHAで他のメーカーの楽器はあまり見ることができない。

YAMAHAにおいても在庫はドバイからの取り寄せになる。

そのくらい楽器は流通していないのだ。

ギターの弦を買うにしても基本はYAMAHAのものとなる。

YAMAHAすげーなって思った。

 

とはいえ日本製のものを日本以外で買うともちろん輸送費や関税で高くなる。

大体のものが1.5倍から2倍くらいになる。

 

その上、日本とヨルダンでは物価が違う。

缶のコカコーラが0.3JODとかだったのでおよそ50円。

 

つまり楽器というものは日本人が考える4倍くらいの価格になるわけで楽器を買うということがいかに贅沢であるかを考えさせる。

 

ちなみにYAMAHAはギターとかでは日本で売ってる1番下のグレードよりもさらに下のグレードのものをヨルダンとかでは売ってたりする。

日本では買えないモデルとかもあるのでやっぱりYAMAHAの手広さには驚かされた。

 

話は電子ピアノに戻って、ひとまずP-45を2校分買った。

 

これで歌を歌う際の伴奏をつけることができるようになった。

子どもたちに音程を与えることができるようになった。

 

これが一つ学校にあるだけでも大きな進歩だった。

 

楽器を配っている人

向こうの教員はFacebookが好きだ。

職場の風景も写真を撮ってはアップすることが多い。

 

ピアノを学校に寄贈したときももちろんアップしていた。

 

ある日、そこの学校長から言われた。

 

他校の学校長から連絡が来た。

どうやったらうちももらえるのか?

ピアノ以外でももらえるのか?

 

どうやらぼくはお金を持っている日本人として伝わってしまっていたらしい。

それ以来はdonationという言葉を使わないようにした。

 

あくまで学校に楽器を置いてるだけなのだ。

ただ送っても使える人がいなければ倉庫の肥やしになることは知っている。

過去に送られたであろう古い楽器もあったりする。

古いマーチングスネアやタムもあったりしたけど誰が指導できるというのだろうか。

 

だからこそ、ぼくはぼくの目が届く範囲に絞っていた。

それでも100万円という金額は何か大きなことをやろうとするには足りないのだから。

 

1000円分の楽器

ピアノを置いたはいいが子どもたち自身が演奏する楽器としてピアノは不向きだった。

そもそも1台しかないので1クラス40〜50人もいたらなかなか全員が触れていくのは難しい。

そして1人ずつ触るなんてこと、彼らにはできない。

(まず喧嘩が起こる)

 

 

 

そんなわけでせめて1クラス分50個近く用意できる安価な楽器はないかと考え、色々なお店を回った。

 

結論からいうと楽器屋には無かった。

 

最初はYAMAHAのピアニカを考えた。

しかし、アンマンのお店には一つしか置いて無かったし、価格も50JOD以上したので50人分×2校集めたら5000JODと100万円近くになってしまう。

 

頭を抱えながら生活したある日、大型百貨店のおもちゃ屋で小さな打楽器類を見つけた。

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写真のものはエッグシェイカーだが500円くらいだ。

他にもトライアングルやスレイベルやタンバリンもあったのでまずは一通り一個ずつ買ってみた。

 

 

とりあえず翌日学校で子どもたちに触れさせてみた。

 

結論から言えばタンバリンのような叩いて音を出す楽器はダメだった。

彼らにとっては「どれだけ強く叩いて大きな音を出すものか」の遊具になってしまうのだ。

ものの1日も経たずに壊れてしまった。

 

そんなわけでリングベルが1番という結論が出た。

それも一個2JODと安価だし、写真が残って無かったけどなかなか可愛いデザインをしていてたので子どもたちにもウケは良かった。

 

当時5chのこましんスレに以下の書き込みがあって1000円分の楽器はあるのか悩んでた。

 

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無事にこのリングベルは3つ買うだけで「1000円分の楽器」の要件を満たしていたので日本にいる悪友とネタにしては笑ってた。

冷静に考えたら何が面白いのかはわからないけどぼくらには何かおかしかった。

 

そんなわけでこのリングベルは100個ほど買った。

そこまでの在庫が一回にあったのはちょっと驚きだった。

 

ベルを買ったことで彼ら自身の手が音楽になることができた。

リズムを合わせるということをできるようになった(手拍子でもできるけど)

 

ぼくは音楽教育が持つ意義の一つに「協働」があると思っている。

そして他の科目で協働をすることは難しい。

(ヨルダンの教育スタイルにおいて)

 

鍵盤ハーモニカおじさん

リングベルを扱っていったはいいが結局のところ手拍子の延長でしかないのでやはり音程があるものを取り扱いたかった。

日本の音楽教育の中ではそこを鍵盤ハーモニカとリコーダーが担っている。

 

先のおもちゃ屋で中国製の鍵盤ハーモニカが15JODで売っていたのだ。

すぐに購入した。

 

YAMAHAのP-32には音色や強度で劣ってしまうがそれでも鍵盤ハーモニカをこの価格で購入できたのは大きい。

次はそれを複数購入するためにアンマン中のお店を探した。

 

一回じゃ集まりきらず取り寄せたりもしてもらって地道に集めた。

こんなに鍵盤ハーモニカを買い占めていく人もそうはいなかっただろう。

たぶん、鍵盤ハーモニカの日本人で噂になってたかもしれない。

 

 

なんとかこれも100個集めた。

どちらも学校においた。

 

これで音程の概念が教えられる。

これで既存の曲が演奏できる。

 

新型コロナがやってきた

鍵盤ハーモニカが集まり、2019年も終わった。

2020年は残りの時間でどう鍵盤ハーモニカやリングベルを使った活動をできるかを考えていた。

 

1月末、新型コロナウィルスのニュースが舞い込んだ。

まだ、感染者は少なかったが感染対策のため吹いたりするのは避ける流れとなった。

 

コロナがもっと話題になった2月では街や難民キャンプを歩けば「コロナ」と呼びかけられることが増えた。

ぼくに限らず東アジア人はみんなそうだったのではないだろうか。

 

そうこうしている間にシャットダウンが始まるということでその前に日本に一時帰国となった。

 

それからはコロナの波は一時期では収まらず、結局ぼくはそのまま日本で生活することを選んだ。

 

 

おわりに

他にも色々あったし、買ったと思うけどひとまず割愛。

結局、ぼくも買うだけ買っておいていくというありふれた援助の形で終わってしまった。

ここまで打ったところで、ぼくは自分の活動を「終わらせる」ことができなかったんだなって気づいた。

 

時々思い出しては虚しくなる気持ちも、それはきっと成功も失敗もできないまま終わってしまったことにいまだに心を引き摺られているんだな。

 

きっと、前澤さんが見ても面白い使い方にはならなかったし、応援してくれた人も、逆に誹謗して来た人にとっても何も面白いことにはならなかった。

 

これを書く前はもう終わった話だと思っていたけど、本当は終わってもいなかったんだな。

 

終わらせなきゃいけないなって思った。

 

必ず。