前回は安定感のあるトニック、強い傾斜であるドミナント、緩やかな傾斜であるサブドミナント(マイナー)というようなダイアトニック・コードの機能について学習しました。
コードの持つ機能を利用して、主音の位置と調の姿を明らかにすることを調の確立といいます。
今回は調性音楽にとって「コード連鎖における文脈」を作る方法を見ていきましょう。
ケーデンス
曲が終わるとき、最も安定したところに「落ち着く」ことを欲するのが自然な感覚です。
調の中で最も安定した場所はトニックとなります。
トニックある終始感をもたらすコードの連なりを終止形=ケーデンスといいます。
ケーデンスは傾斜感を持ったコード、つまりドミナントやサブドミナントやサブドミナント・マイナーがトニックに進行することで成立します。
それでは一つずつ見ていきましょう。
① ドミナント・ケーデンス
ドミナント側が四和音=ドミナント・セブンス・コードであれば、音階上の第七音→第一音、第四音→第三音という収束力の強い進行を持つことになります。
第七音と第四音で形成する音程は増4度の音程となりこれをトライトーンと呼びます。
このトライトーンから第三音と第一音という安定した音に進行することで得られる安定感が、このケーデンスを強くしています。
トニックの機能を持つコードは他にⅢm7とⅥm7がありますが、ドミナントからⅢm7への進行は第七音→主音の流れを欠き、ドミナントからⅥm7への進行はⅥm7を主和音とする調への転調と混同されるような響きを生じるのでドミナント・ケーデンスには含みません。
マイナー・キーでは、第四音→第三音が全音になりますが第七音→主音への流れがあるので安定感は強いです。
また、第四音→第三音が全音になるかわり、Ⅶdim7→Ⅰmは第六音→第五音の半音関係ができます。
マイナー・キーのドミナントには、ドミナント・マイナーのⅤm7がありますがこの場合は一番大切な第七音→主音が全音となるのでトニックへの傾斜は強くありません。
ドミナント・ケーデンスは増4度であるトライトーンがどのように進行して安定した音程になるかがポイントです。
よって、Ⅴm7を利用するものはドミナント・ケーデンスとは呼びません。
② サブドミナント・ケーデンス
長音階の第四音→第三音の収束力を用いたドミナント・ケーデンスより穏やかなケーデンスです。
③ サブドミナント・マイナー・ケーデンス
短音階で第四音→第三音が全音になったために弱まった収束力を、第六音→第五音の半音進行によって補ったケーデンスです。
サブドミナント・マイナーのコードはメジャー・キーのトニックへ進むことができます。
このとき、第三音が短3度→長3度と動く場合があり、この半音の流れが強い安定感を生みます。
コネクティッド・ケーデンス
より強い終始感を得るためにコードを二つ使って作るケーデンスを連終始=コネクティッド・ケーデンスといいます。
ジャズで使われる「ツー・ファイブ・ワン」もこのコネクティッドケーデンスの一種です。
①SD-D-T
Ⅳ-Ⅴ7-Ⅰ
Ⅱm7-Ⅴ7-Ⅰ
②SDM-Dm-Tm
Ⅳm7-Ⅴm7-Ⅰm
♭ⅥM7-Ⅴm7-Ⅰm
③SDM-D-Tm(T)
Ⅳm7-Ⅴ7-Ⅰm(Ⅰ)
Ⅱm7(♭5)-Ⅴ7-Ⅰm(Ⅰ)
♭ⅥM7-Ⅴ7-Ⅰm(Ⅰ)
④SD-SDm-T(Tm)
Ⅱm7-Ⅱm7(♭5)-Ⅰ(Ⅰm)
ⅣM7-Ⅳm7-Ⅰ(Ⅰm)
ⅣM7-♭Ⅶ7-Ⅰ(Ⅰm)
⑤SDm-SDm-Tm(T)
Ⅳm7-♭Ⅶ7-Ⅰm(Ⅰ)
♭ⅥM7-♭Ⅶ7-Ⅰm(Ⅰ)
偽終止
コード進行は常に予想通りとは限りません。
予想外の展開に感じる驚きも音楽の大切な要素となります。
ドミナントがトニック(Ⅰ)ではなくトニック属の他のコードに進行することを偽終止といいます。
偽終止は英語でDeceptive Cadenceというのでコード進行の分析ではD.C.という略記を使います。
Ⅴ7→Ⅲm7
Ⅴ7→Ⅵm7
また、トニック属のコードⅢm7やⅥm7に進行する流れでありながら、同じ根音のⅢ7やⅥ7に行く場合も偽終止に含めます。
Ⅴ7→Ⅲ7
Ⅴ7→Ⅵ7
未完終止
調性を提示することを主眼とする場合では必ずしも終止の完了=Ⅰに向かう必要はありません。
適切に音の流れが導からていればⅠを聞かなくても調性を感じ取ることができます。
このような観点で、Ⅰを明示する前の段階で留めたままにしておくコード進行を未完終止=インコンプリート・ケーデンスといいます。
頻繁に使われるのはⅡm7-Ⅴ7の繰り返しです。
様々な楽曲で聴くことができます。